誰と誰が繋がっている?
それはね――――
口元を緩めたところに、ドアの向こうから聞こえる声。
茜は緩めた口元を押さえた。
「こっちが聞いてるんだよっ」
声音から、どうやら長髪の男の子らしい。
ドアホンで対応した木崎の口から"美鶴"という名前を何度か聞いた。彼女に関する何かで二人がやってきたコトには間違いない。
初めてあの二人を見た時、どちらも彼女へ想いを寄せているのは、一目見て理解できた。
特にあの長髪の、たしか聡とかいったっけ? あの子は美鶴さんのコトになると、周囲が見えなくなるってカンジ。
わが主へ向ける剣呑な嫉妬の視線を思い浮かべ、茜はそっと肩を竦めた。
「さっきから言ってるじゃねーかっ」
出されたオレンジジュースなどまったく無視で、ソファーから腰を浮かせる聡。その姿を、向かいに座る霞流慎二が穏やかに見つめる。
「鍵が開いていたという事は聞きました」
「じゃあなんだよっ!」
「私はただ、鍵を抉じ開けられたような形跡はなかったか? と、お伺いしているだけですよ」
「なかったよっ!」
バンッと右手でテーブルを叩く。さすがに瑠駆真が身を乗り出す。
「落ち着けよ」
恋敵に宥められては、聡としては気分よろしいワケはない。
「落ち着けるかぁっ!」
八つ当たりのように怒鳴り散らすが
「美鶴に逢いたいんじゃないのか?」
「っ!」
「美鶴の居場所が知りたかったら、もう少し相手の話も聞けよ」
右横から、鮮やかな瞳が力強く見返してくる。
見据えられ、聡は怒りを殺してソファーに身を預けた。
その態度に瑠駆真はホッと息を吐き、改めて霞流慎二と向かい合う。
「鍵は確認しました。見たカンジ、抉じ開けられたりとか、そんな雰囲気はなかったと思います」
「では、誰かが鍵を開けて入ったと。それは間違いないのですね?」
「僕たちは、そう思っています」
簡潔に答え、続けて今度は瑠駆真から問う。
「霞流さんが開けたワケではないのですか?」
慎二はその質問には直接答えず、黙って脇に控える木崎を振り返る。
視線を受けて、木崎はゆっくりと口を開いた。
「こちらで開けた覚えはございません」
そこで一度口を閉じ、視線を床へ落す。
「私としましては、今日から駅舎の管理は再び大迫様へお願いしております。ゆえに今日から、駅舎の開錠および施錠は大迫様、美鶴さんが行うものだと認識しております」
広がる沈黙。
木崎は、黙ってしまった三人へ向かって、ごくゆっくり顔をあげた。
慎二のような細身なら、三人は十分に座れよう。そんなソファーにゆったりと腰掛け、少し虚ろな瞳で相手二人を見つめる慎二。
項で結んだ薄色の髪の毛は、一部はソファーの背を流れ、一部はソファーと慎二の背に挟まれて姿を隠している。その、無頓着に扱われて乱れた様も、またそれなりに華。
むしろ丁寧に扱われてソファーの背に流されるよりも、色気があるのではないか。
膝の上で組まれた細い指もしかり。
一方、向かいに座る二人。
こちらもまた、負けず劣らずイイ男。
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